第29回 骨粗鬆症治療薬とMRONJ──骨吸収抑制薬を服用中の方の注意

骨粗鬆症治療薬とMRONJ

武蔵小金井の当院がお届けするインプラント連載「武蔵小金井 インプラント」シリーズ第29回のテーマは、「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)治療薬とMRONJ(エムロンジェイ・薬剤関連顎骨壊死)」です。骨粗鬆症は、骨の量が減り質が変化して、骨折しやすくなる病気です。特に閉経後の女性に多く、治療にはビスホスホネートやデノスマブといった「骨吸収抑制薬」が広く使われています。これらの薬を使用中の方が抜歯やインプラントなどの外科処置を受けるとき、知っておきたいのが、あごの骨に起こり得るMRONJという合併症です。

本記事では、骨吸収抑制薬とはどのような薬なのか、MRONJとはどのような状態なのか、リスクをどう考えればよいのか、なぜ薬を自己判断で中止してはいけないのか、そして毎日の口腔衛生がなぜ予防の柱になるのかを、順序立てて解説します。この記事は、服用中の方を不安にさせるためのものではありません。むしろ「正しく知って、正しく備えれば、過度に恐れる必要はない」ことをお伝えするための回です。骨の薬を使っているご本人はもちろん、高齢のご家族を支えている方にも読んでいただきたい内容です。

なお、前回の第28回では、血液に関わる薬(抗血栓薬)の管理を解説しました。今回は「骨に関わる薬」に絞ってお話しします。糖尿病など全身の病気とインプラントの関係の全体像は、第9回をあわせてご覧ください。

目次

骨粗鬆症という病気と、治療薬の役割

骨は「壊す・作る」を繰り返している

骨は一度できあがったら変わらない組織ではなく、古い骨を溶かして吸収する細胞(破骨細胞)と、新しい骨を作る細胞(骨芽細胞)が働き続け、常に少しずつ生まれ変わっています。これを骨のリモデリング(再構築)と呼びます。加齢や閉経後のホルモンの変化などで「壊す」働きが「作る」働きを上回ると、骨の量が減り、スカスカともろい状態、すなわち骨粗鬆症へ進んでいきます。

骨吸収抑制薬は「骨折を防ぐ」ための薬

骨粗鬆症の治療で広く使われる骨吸収抑制薬は、破骨細胞の働きを抑えることで骨が壊されるのを減らし、骨の量を保って骨折を防ぐことを目的としています。背骨や足の付け根(大腿骨近位部)の骨折は、痛みだけでなく、歩行機能の低下や寝たきりのきっかけになり得るため、骨折の予防は健康寿命に直結する大切な治療です。まずこの点を押さえておくと、「歯科治療のために薬を軽々しく止めるべきではない」ことが理解しやすくなります。

骨吸収抑制薬の主な種類

ビスホスホネート製剤

ビスホスホネート(BP)は、骨の成分に強く結合して破骨細胞の働きを抑える薬です。週に1回や月に1回など、決まった間隔で服用する飲み薬のほか、点滴や注射の製剤もあります。アレンドロン酸やリセドロン酸などの一般名で処方され、骨粗鬆症治療の代表的な薬として長い使用実績があります。骨に長くとどまる性質があるため、服用をやめたあとも効果や影響がしばらく続くと考えられている点が特徴です。

デノスマブ(抗RANKL抗体)

デノスマブは、破骨細胞が育つために必要なRANKL(ランクル)というたんぱく質の働きを抑える注射薬で、骨粗鬆症に対しては半年に1回の皮下注射として使われることが一般的です。ビスホスホネートと異なり骨に蓄積せず、中断すると効果が比較的すみやかに失われ、骨密度の低下や骨折のリスクが高まることが指摘されています。このため、デノスマブを「なんとなく打ちに行かない」で間隔を空けてしまうことにも注意が求められます。

作用の仕組みが異なる薬もあります

骨粗鬆症の薬には、骨の形成を促すタイプ(テリパラチドなど)や、女性ホルモンに似た働きをするタイプ(SERM)、活性型ビタミンD3製剤など、骨吸収抑制薬とは仕組みの異なる薬もあります。MRONJとの関連が主に議論されているのは骨吸収抑制薬(ビスホスホネートとデノスマブ)と、がん治療で使われる一部の薬です。ご自身の薬がどれに当たるかは、お薬手帳があれば歯科医院で確認できます。

分類 代表的な例(一般名) 使い方の例 特徴の一般論
ビスホスホネート アレンドロン酸、リセドロン酸など 週1回・月1回の飲み薬、点滴・注射 骨に長くとどまり、中止後も影響が続くと考えられている
デノスマブ デノスマブ 半年に1回の皮下注射(骨粗鬆症の場合) 骨に蓄積せず、中断で効果が失われやすいと指摘されている
その他の骨粗鬆症薬 テリパラチド、SERM、活性型ビタミンD3など 薬により注射・飲み薬 骨吸収抑制薬とは作用の仕組みが異なる

※上の表は薬の種類を大づかみに整理した一般的な情報です。個々の薬の使い方や注意点は、処方医・薬剤師の説明に従ってください。

MRONJ(薬剤関連顎骨壊死)とは何か

どのような状態か

MRONJは「Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw」の略で、日本語では薬剤関連顎骨壊死(がっこつえし)と訳されます。骨吸収抑制薬などを使用中の方に起こり得る、あごの骨の治りにくい障害のことです。具体的には、歯ぐきの傷が長い間ふさがらずに骨が露出したままになる、歯を抜いたあとの穴がいつまでも治らない、歯ぐきの腫れや膿、痛み、あごのしびれ、歯のぐらつきなどの形で現れます。初期には目立った自覚症状がないこともあります。

なぜ「あごの骨」で起こりやすいのか

全身の骨に作用する薬なのに、なぜあごの骨で問題が起こるのでしょうか。あごの骨は、歯と歯ぐきを介してお口の中の細菌と常に接している、全身でも特殊な環境にあります。噛むたびに力がかかり、薄い粘膜のすぐ下に骨があり、抜歯のように骨がむき出しになる処置も行われます。むし歯や歯周病の炎症が骨へ波及する経路もあります。骨の生まれ変わりが薬で抑えられた状態にこうした感染や刺激が重なると、骨の修復が追いつかず、治りにくい状態につながると考えられています。

呼び名の整理──BRONJからMRONJへ

この状態は、当初ビスホスホネートとの関連で報告されたためBRONJ(ビスホスホネート関連顎骨壊死)と呼ばれていました。その後、デノスマブなど他の薬でも起こり得ることが分かり、骨吸収抑制薬全般ではARONJ、薬剤全般を含めてMRONJという呼び方が使われるようになりました。本記事では、現在広く使われているMRONJという呼称で統一します。

もし発症した場合の対応(概要)

万一MRONJと診断された場合には、洗口液などによる洗浄、抗菌薬の使用、壊死した骨の除去といった対応が、状態の段階に応じて検討されます。多くの場合、口腔外科のある病院と連携しながら管理します。この場面でも薬を自己判断で中止せず、医科歯科の連携のもとで治療方針が決められます。早い段階で見つかるほど負担の少ない対応を選びやすいため、後述する定期検診が大きな意味を持ちます。

リスクの考え方──過度に恐れず、正しく備える

発生の頻度についての一般的な理解

大切なことなので繰り返しますが、骨粗鬆症の治療で使う用法・用量において、MRONJの発生頻度は決して高いものではないと考えられています。服用中の方の大多数は、適切な口腔管理のもとで通常の歯科治療を受けています。一方、がんの骨転移の治療などで同系統の薬を高用量で使用している場合は、より慎重な対応が求められます。頻度の具体的な数値は研究によって幅があるため、ここでは断定的な数字を挙げず、「まれだがゼロではない」「条件によってリスクの重みが変わる」という理解をおすすめします。

リスクに関わるとされる主な要因

  • 薬に関する要因:使用期間が長い、注射・点滴製剤、がん治療目的の高用量など
  • お口の要因:歯周病や根の先の病巣などの感染、口腔衛生の不良、合わない入れ歯による傷、抜歯などの外科処置
  • 全身の要因:ステロイドの併用、糖尿病、喫煙、貧血や免疫の低下など

これらが重なるほどリスクは高まるとされます。裏を返せば、口腔衛生の改善や歯周病の治療、入れ歯の調整といった「歯科でコントロールできる要因」を整えることが、そのまま予防につながります。

「薬をやめれば安心」と単純にはいえない理由

ビスホスホネートは骨に長くとどまるため、処置の直前に短期間休んでも、影響がすぐに消えるわけではないと考えられています。休薬がMRONJの予防にどれほど役立つかについては現在も議論があり、一律の正解はありません。一方で、休薬中に骨折が起これば、生活への影響は甚大です。「やめれば安心、続ければ危険」という単純な図式ではないからこそ、次に述べる医科歯科連携による個別の判断が重要になります。

自己判断で中止しない──休薬の判断は医科歯科連携で

歯科治療やインプラントの予定ができたからといって、骨粗鬆症の薬を自己判断で中止しないでください。骨吸収抑制薬は骨折からからだを守っている薬であり、中断すればその間の骨折リスクが問題になります。特にデノスマブは、中断により効果が失われやすく、骨折のリスクが高まることが指摘されているため、注射の予定を自己判断で延期しないことも大切です。

処置の前に休薬するかどうか、するならいつからいつまでか──この判断は、骨折のリスクとあごの骨のリスクを天秤にかける、医科と歯科の共同作業です。例えば「骨粗鬆症の飲み薬を数年間使用中の方の小さな処置」と「がん治療で点滴製剤を使用中の方の広い範囲の手術」では、前提がまったく異なります。だからこそ、画一的な休薬ではなく、個別の情報に基づく判断が必要になるのです。歯科医院から処方医への文書での照会(対診)を通じて、薬の種類・使用期間・骨の状態・処置の内容といった情報を共有し、その方にとって望ましい進め方を一緒に決めていきます。患者さんにお願いしたいのは、「隠さず、正確に伝える」こと、そして決まった方針を守ることです。骨吸収抑制薬を使用中の方への対応は、公益社団法人日本口腔インプラント学会の治療指針でも重視されている領域です。

インプラント治療を検討するときの一般的な流れ

骨吸収抑制薬を使用中の方がインプラントを検討する場合、一般に次のような順序で進みます。まず問診とお薬手帳で薬の種類・開始時期・投与方法を確認します。次に、必要に応じて処方医へ対診を行い、骨粗鬆症の状態や薬の継続方針を確認します。あわせて、歯科用CTなどで骨や粘膜の状態、歯周病の有無を評価します。これらを踏まえ、インプラントを行うかどうか、行う場合の時期・範囲・術式、行わない場合の代わりの選択肢までを含めて、歯科医師が診察のうえ総合的に判断します。

実施する場合には、感染予防を徹底し、骨や歯ぐきへの負担を抑えた丁寧な処置を心がけ、傷の治りを通常より注意深く経過観察します。治療を急がず、歯周病治療やクリーニングでお口の環境を整えてから手術に進む計画になることもあります。治療後も、インプラント周囲炎(第8回参照)はMRONJの観点からも避けたい炎症であるため、メンテナンスの重要性がいっそう高くなります。すでにインプラントが入っている方がこれから骨粗鬆症の薬を始める場合も、事前に歯科でお口の状態を確認し、メンテナンスを続けながら使用していくことが望まれます。高齢の方の治療の考え方は、第18回でも解説していますのであわせてご覧ください。

費用・治療期間・リスクについて(自由診療のご案内)

インプラント治療は公的医療保険が適用されない自由診療です。費用は本数・骨造成の有無・上部構造の素材などにより症例ごとに異なり、当院では診察と検査のうえ、治療計画とあわせて事前にご提示します。治療期間はおおむね数か月から1年程度で、複数回の通院が想定されます。主なリスク・副作用には、出血・腫れ・痛み・感染、神経損傷によるしびれ、インプラント周囲炎、骨と結合しない場合の再手術などがあり、骨吸収抑制薬を使用中の方では、まれではあるもののMRONJへの配慮が加わります。効果や経過には個人差があります。

口腔衛生による予防──毎日のケアが第一の対策

薬を始める前の歯科受診が理想的です

これから骨吸収抑制薬による治療が始まる予定の方は、可能であれば開始前に歯科を受診し、お口全体の点検を受けておくことが望ましいとされています。保存が難しい歯の抜歯や歯周病の治療など、外科的な処置が見込まれるものを先に済ませておけば、薬の使用開始後に大きな処置が必要になる場面を減らせるからです。医科で「歯の検診を受けておいてください」と言われたら、それはMRONJ予防の第一歩です。

毎日のセルフケアと定期検診

使用中の予防の柱は、特別なことではなく、丁寧な歯磨きと歯間清掃、そして定期検診です。プラーク(歯垢)を減らして歯周病やむし歯を防ぐことは、あごの骨に感染が及ぶ入り口をふさぐことにほかなりません。フッ化物配合の歯磨き剤でむし歯を防ぎ、歯間ブラシやデンタルフロスを組み合わせると効果的です。定期検診では、歯ぐきの状態の確認、クリーニング、粘膜の傷のチェックなどを行い、小さな異変を早い段階で拾い上げます。

入れ歯の「当たり」や粘膜の傷にも注意

合わない入れ歯が同じ場所に当たり続けてできる傷は、粘膜の下の骨が露出するきっかけになり得ます。入れ歯が緩い・痛い・擦れると感じたら、我慢して使い続けず、調整を受けてください。とがった歯や被せ物の縁が粘膜に当たっている場合も同様です。

気になる症状があれば早めに受診を

  • 抜歯後の傷がいつまでも治らない、穴がふさがらない
  • 歯ぐきから白っぽい骨のようなものが見えている
  • 歯ぐきの腫れ・膿・繰り返す痛みが続く
  • 下くちびるやあごのしびれ・違和感が続く
  • 原因のはっきりしない歯のぐらつきが出てきた

こうしたサインに気づいたら、様子見をせず、服用中の薬を伝えたうえで歯科を受診してください。早い段階での対応ほど、選べる手立てが多くなります。

時期 予防のためにできること
薬を始める前 歯科検診で全体を点検し、必要な抜歯や歯周病治療を先に済ませておく
薬の使用中 毎日のセルフケアと定期検診を続け、入れ歯の当たりや粘膜の傷を放置しない
外科処置が必要になったとき 自己判断で休薬せず、歯科と処方医の連携のもとで時期と方法を決める
処置のあと 指示どおりの消毒・服薬と経過観察を守り、治りが悪ければ早めに連絡する

よくある質問(FAQ)

骨粗鬆症の薬を服用中でも、インプラント治療を受けられますか。

服用しているという事実だけで一律に不可となるわけではありません。薬の種類・使用期間・投与方法、骨やお口の状態、全身状態を評価し、処方医と連携したうえで歯科医師が判断します。がん治療で高用量を使用している場合など、条件によっては別の治療法が検討されることもあります。

MRONJは、どのくらいの頻度で起こるものですか。

骨粗鬆症の用法・用量では、発生頻度は決して高くないと考えられています。報告される頻度は研究によって幅があり、使用期間や投与方法、お口の衛生状態などの条件でも変わるため、一つの数字で語ることはできません。「まれだが、条件次第でリスクが変わる」ものとして、予防できる要因を整えることが現実的な備えです。

歯科治療の前に、薬をやめておいた方がよいのでしょうか。

自己判断で中止しないでください。休薬が予防にどの程度役立つかは現在も議論があり、一方で休薬中の骨折という別のリスクが生じます。休薬の是非や期間は、処置の内容や薬の種類・使用期間をもとに、歯科医師と処方医が連携して個別に判断します。

飲み薬と注射(点滴)では、注意の程度が違いますか。

一般に、がんの治療で使われる高用量の注射・点滴製剤では、より慎重な対応が求められるとされています。骨粗鬆症で使う飲み薬や半年に1回の注射は、それに比べればリスクは低いと考えられていますが、ゼロではないため、種類にかかわらず使用中であることを歯科に伝えてください。

もう何年も服用しています。期間は関係ありますか。

使用期間が長いほどリスクが高まる傾向が指摘されています。いつから使っているか、途中で薬が変わったかは大切な情報ですので、お薬手帳や記憶の範囲で構いませんから、開始時期を教えてください。長期間の使用を理由に治療をあきらめる必要はなく、その情報を前提に計画を立てることが目的です。

デノスマブの注射を受けています。特に気をつけることはありますか。

デノスマブは中断すると効果が失われやすく、骨折リスクの上昇が指摘されている薬です。歯科治療を理由に注射の予定を自己判断で延期せず、治療の予定がある場合は歯科と処方医の双方に伝えてください。注射のスケジュールと歯科処置の時期を調整しながら進める形が一般的です。

あごの骨の壊死には、どんな初期サインがありますか。

抜歯後の傷が治らない、歯ぐきから骨のようなものが見える、腫れや膿・痛みが続く、あごやくちびるのしびれ、歯のぐらつきなどが知られています。初期には自覚症状が乏しいこともあるため、症状がなくても定期検診で粘膜と歯ぐきの状態を確認しておくことが早期発見につながります。

高齢の家族が入れ歯で、骨の薬も使っています。何に気をつければよいですか。

入れ歯が当たってできる粘膜の傷が、骨の露出のきっかけになることがあります。「入れ歯が緩い・痛い」という訴えを放置せず、調整を受けられるよう付き添ってあげてください。あわせて、毎日の清掃と定期検診、服用中の薬を歯科に伝えることをご家族がサポートしていただけると、予防の大きな力になります。

骨粗鬆症の薬は、骨折からからだと生活を守る大切な薬です。そしてMRONJは、正しい知識と口腔管理によってリスクを下げられる合併症です。「薬をやめるかどうか」を一人で悩むのではなく、薬の情報を歯科と共有するところから始めてください。武蔵小金井の当院では、骨吸収抑制薬を使用中の方の検診からインプラントのご相談まで、処方医との連携を大切にしながら対応しています。ご来院の際は、お薬手帳をお持ちのうえ、骨の薬を含むすべてのお薬をお知らせください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療方針は診察のうえ個々の状態により異なります。詳しくは歯科医師にご相談ください。

監修者:歯科医師 坂巻 良一

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